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ラーニングコーナー

2021/05/14

免疫沈降(IP)の原理と、使用するビーズや反応の選び方

タンパク質や核酸の研究に欠かせない手法となっている免疫沈降の原理、よく使われる担体ビーズの種類と選択方法、一次抗体とビーズの反応、ターゲットタンパク質の溶出などについて解説いたします。

免疫沈降(Immunoprecipitation, IP)の原理

免疫沈降(Immunoprecipitation, IP)は、「特定の抗原を認識する抗体を用い、標的抗原や抗原に親和性を示す分子を混合物中から選択的に分離、分析する免疫化学的手法*」です。精製前サンプルであるInputの細胞溶解液中で、抗体と標的抗原・分子の複合体(免疫複合体)をビーズなどの不溶性担体に付着させて回収する方法が一般的に用いられています(図1)。担体への結合は、Protein A/G、二次抗体、共有結合、ストレプトアビジン(Streptavidin)などを介して行われます。回収した免疫複合体から標的抗原・分子を解離させ電気泳動など他の実験手法と組み合わせることで、タンパク質間相互作用やリン酸化の検出など様々な解析が可能になります。
(*出典:生化学辞典第4版、東京化学同人)

図1 免疫沈降ワークフローの例

dynabeads_ip_workflow.png

担体に磁性ビーズであるDynabeads™(ダイナビーズ)を使用し、直接法で行うIPの手順を示しました。はじめにビーズ表面に抗体(イムノグロブリン、Ig)を結合させます。次に、ターゲット(目的抗原)を含む溶液(Inputサンプル)を加え、ビーズ-抗体-ターゲット複合体を形成させます。その後、磁石を使ってビーズをチューブ側面に集め、上清をピペットで吸引し除去します。最後に溶出バッファーを加えターゲットをビーズから解離し回収します。Dynabeadsによる免疫沈降は、全工程を40分未満で完了することができます。

小スケールの免疫沈降にDynabeadsが最適な理由

磁気ビーズであるDynabeads(ダイナビーズ)は、直径数µmのサイズが均一な球状で、単分散の性質を持ちます(図2)。
滑らかな表面を持つため、非特異的結合は非常に少なくなります。
一方、セファロース/アガロースのスラリーは多孔質でサイズが大きく、表面だけでなく構造体内部にも抗体との結合部位が存在します。そのため使用する抗体量が多くなり、抗体のコストが高くなる可能性があります(図3)。また、内部に固定化された抗体は抗原と接触できないことによる無駄や、表面あるいは内部での非特異結合によるバックグラウンド上昇のリスクがあります(図4)。

図2 磁気ビーズの顕微鏡観察像

1000_Fig2_dynabeads_em.jpg

Dynabeads(A)は他社ビーズ(B-D)に比べ、均一なサイズと形状を持ちます。

 

図3 担体の構造:セファロース/アガロース vs Dynabeads

sepharose_dynabeads.png

 

図4 免疫沈降の結果:セファロース/アガロース vs Dynabeads

1000_Fig1a_dynabeads_proteina_ip.jpg
1000_Fig1b_dynabeads_proteing_ip.jpg

A:Dynabeads Protein A、B:Dynabeads Protein G
Input:Daudi細胞溶解液から、各担体をもちいた免疫沈降により分離したターゲット(HSA)をSDS-PAGE・銀染色で検出しました。Dynabeadsでは最も短時間に高収率で回収されています。

また、Dynabeads複合体は磁石で容易にB/F分離でき、サンプルロスの可能性を低減できます。
これらのことから、サンプルが比較的小スケールの免疫沈降には、総合的なコストを抑えられ、時間を短縮でき、高い純度と再現性を期待できるDynabeadsが不溶性担体として最適です(表1)。またDynabeadsを用いた免疫沈降は自動化に対応できます。
最近の論文動向を見てもDynabeadsによる免疫沈降は増加しています(図5)。

表1 免疫沈降に用いる担体ビーズの比較

比較項目 磁気ビーズ(Dynabeads) セファロース/アガロース
粒径 1, 2.8, 4.5 µm 約90 µm(平均)
模式図
dynabeads_surface_1.png
other_beads_surface-1.png
実際の画像
dynabeads_collect_1.png
dynabeads_collect_2.png
ペレットの見やすさ 見やすい 見にくい
抗体結合量 やや少ない 多い
操作方法 簡便
(専用磁石が必要)
煩雑
(プレクリア、遠心が必要)
IPの所要時間 40分未満 2-3時間
非特異結合、
バックグラウンド
少ない 多い
サンプルロス 少ない 多い
再現性 高い 低い
その他の特長 分散性が高く、
自動化に有用
大量精製向け

図5 免疫沈降に関する論文の増加率

1000_Fig4_dynabeads_ip_references.jpg

免疫沈降に関する論文の年間発表数の増加率を、使用した担体の種類別に示したものです。
全論文(左)、Nature誌(右)ともにDynabeadsを使用した論文の増加率が高くなっています。

以下の記事もご覧ください。

免疫沈降に利用可能なDynabeadsの種類

免疫沈降(Immunoprecipitation, IP)にもちいる担体に抗体を結合させる様式はさまざまです。
それぞれのDynabeads(ダイナビーズ)製品が対応している結合様式・利点をご紹介します(表2)。

表2 免疫沈降に用いるDynabeadsと抗体またはリガンドの結合様式

dynabeads_ip_test.png

 

プロテイン A/G

プロテインA 及びプロテインGとは、それぞれStaphylococcus aureus (黄色ブドウ状球菌)及びG グループのStreptococci (連鎖状球菌、ストレプトコッカス)の細胞壁に含まれるタンパク質で、大抵のほ乳類のイムノグロブリン(Ig)と結合する能力を持ちます。結合は主にFc 部位を通して起こります。

Dynabeads Protein A 及びDynabeads Protein Gは、組み換えプロテインA 及びプロテインG を共有結合で固定化した粒径2.8 µmの磁性ビーズです。 これらの組み換えプロテインA 及びプロテインG には、夾雑タンパク質の共精製を防ぐためアルブミン結合部位が含まれていません。イムノグロブリン(Ig)の種類によって結合強度は異なります。
各ビーズにIP用バッファーが付いた便利なキットDynabeads Protein A Immunoprecipitation Kit および Dynabeads Protein G Immunoprecipitation Kitもございます。

共有結合

共有結合(Covalent bond)は電子を共有する化学結合で、非常に安定です。ビーズ表面とタンパク質の官能基どうしを反応させ共有結合を作ることで、ビーズ表面に直接かつ安定にタンパク質を固定化できます。
Dynabeads M270 Epoxyは活性の高いエポキシ基を表面に持つ粒径2.8 µmの磁性ビーズで、抗体の一級アミンまたはスルフヒドリル基と共有結合を形成します(図6)。標的タンパクを溶出する際、抗体の溶出を避けることができます。4℃で反応できるため温度不安定抗体にも適しています。また、抗体の結合や共免疫沈降(Co-IP)用のバッファーが付いた便利なキットDynabeads Antibody Coupling kit、Dynabeads Co-Immunoprecipitation kitもございます。穏やかな分離条件のため、大きなタンパク質複合体を完全な状態で分離することができます。

図6 Dynabeads 表面エポキシ基と一級アミンの共有結合形成

aminebond_activation.png

 

二次抗体

二次抗体(Secondary antibody)は、各種の一次抗体(Primary antibody)と特異的に結合する性質を持ちます。一次抗体を反応させたサンプル溶液に二次抗体結合ビーズを加えることで、抗原と一次抗体の複合体をビーズ表面に結合させます。
Dynabeads Sheep anti-Mouse IgGおよびDynabeads Sheep anti-Rabbit IgGは、ヒツジポリクローナル抗体を共有結合で固定化した二次抗体結合ビーズで、マウスIgGおよびウサギIgGをそれぞれ一次抗体として組み合わせて使用します。粒径2.8 µmの磁性ビーズです。DNAに対する非特異結合が少ないため、クロマチン免疫沈降(ChIP)におすすめです。

 

ストレプトアビジン

アビジン(Avidin)およびストレプトアビジン(Streptavidin)は4量体タンパク質で、1分子当たり4分子のビオチン(Biotin)と結合します。アビジン-ビオチン複合体の解離定数は10-15と、非共有結合ながらきわめて安定です。
ビオチンは比較的容易に生体分子への導入が可能で、低分子であるため導入分子への影響も少なく、免疫学試験や分離精製など多くの実験でアビジン-ビオチン結合が利用されています。Streptomyces avidiniiから単離されたストレプトアビジンは、卵白由来のアビジンより非特異的な結合が少ないのが特徴です。
Dynabeads Streptavidinは、組み換えストレプトアビジンを表面に単分子層で共有結合させた磁性ビーズです。ストレプトアビジンが単分子層であることで、ビオチン化抗体と効率的に結合でき、再現性の高い実験結果が得られます。
免疫沈降にはビーズ表面が疎水性のDynabeads M-280 Streptavidin、またはビーズ表面が親水性のDynabeads M-270 Streptavidinをご利用ください。

Cobalt-based Immobilized Metal Affinity

リコンビナントタンパクを介することで、抗体が不要な免疫沈降を実現します。
Hisタグ融合組み換えタンパク質を介した免疫沈降に、Dynabeads His-Tag Isolation & Pulldownをもちいることができます。

免疫沈降における「直接法」と「間接法」の使い分け

免疫沈降(Immunoprecipitation, IP)には直接法(Direct法)、間接法(Indirect法)と云われる2つのアプローチがあります。
予めビーズ(担体)に結合させておいた一次抗体をターゲット(抗原)と反応させる方法を直接法、一次抗体と抗原を反応させてからビーズに抗原-抗体複合体を結合させる方法を間接法と云います。
以下で各方法について解説します。

直接法と間接法の違いを解説

IPにおける直接法と間接法 使い分けの目安

直接法

  • 一次抗体の抗体価が高い
  • 標的抗原(タンパク質)が豊富
  • 一次抗体を結合済みのビーズをストックできる
  • 一次抗体の必要量が少ない

間接法

  • 一次抗体の抗体価が低い
  • 標的抗原(タンパク質)が少ない
  • サンプルとビーズのインキュベーションを最小限にし、非特異結合を減らせる
    (直接法で純度が低い時)

免疫沈降でターゲットが回収できない場合、直接法から間接法へ変更することで改善されることがあります。他に原因としては、抗体の親和性や濃度、サンプルやビーズの濃度、インキュベーション条件などが考えられます。

間接法は、非特異結合を減らしてターゲットタンパク質の純度の向上に有効な場合があります。その際、抗体の使用量には十分注意してください。
ターゲットに対して過剰量の抗体を用いると、ターゲットの結合していないフリーの抗体が多くなり、それは抗原抗体複合体より早くビーズに結合してしまいます。その結果、ターゲットの収量を減少させる恐れがあります。
先ず一次抗体の最適濃度を決定し、用いるビーズの抗体結合能に基づいて、一次抗体の回収に必要なビーズ量を計算してください。

動画マニュアル
Dynabeads Protein A/Gを用いた免疫沈降(直接法)
Dynabeads Protein A/Gを用いた免疫沈降(間接法)

免疫沈降におけるターゲット(標的タンパク質)の溶出条件

免疫沈降で担体上に回収したターゲット(標的タンパク質)は、下流のアプリケーションに応じてビーズとの複合体のまま、あるいは溶出して利用します。
溶出には変性条件と非変性条件があります(表3)。
変性条件では還元剤(DTT、2-メルカプトエタノールなど)、界面活性剤(SDSなど)、加熱などを組み合わせタンパク質の立体構造を破壊して溶出します。
一方、非変性条件での溶出ではタンパク質の立体構造を保ったまま溶出させるため、pH変化のような比較的温和な条件でおこないます。

Protein A/Gを用いた免疫沈降でターゲット(標的タンパク質)を溶出する際、抗体も溶出してしまい、標的タンパク質の精製や検出の邪魔になってしまうことがあります。そんな時は、あらかじめ抗体をProtein A/Gとクロスリンク(架橋)して溶出を抑えることができます。

表3 アプリケーションに応じた溶出方法の選択

変性条件 非変性条件 変性せず
模式図
denature_elution.png
mild_elution.png
no-elution.png
アプリケーション例

・SDS-PAGE
・ウェスタンブロッティング

・酵素反応
・立体構造
・タンパク質精製
・免疫沈降
・タンパク質間相互作用
・イムノアッセイ
動画マニュアル
標的抗原の変性溶出と変性溶出

免疫沈降後の標的タンパク質の解析

免疫沈降(Immunoprecipitation, IP)で回収した標的タンパク質の解析手法として、広く行われているウエスタンブロッティング(ウェスタンブロット法、Western Blot)は、「電気泳動によって分離されたタンパク質をニトロセルロース膜あるいは、PVDF膜(ポリビニリデンジフルオリド膜)に電気的に転移し、そのタンパク質を抗体によって検出する方法*」です。ゲル電気泳動での分離と抗体の特異性によって、タンパク質複合体および混合物中の標的タンパク質を識別することができます(図7)。検出したシグナルの強度をもとに、タンパク質の定量的および半定量的な解析をおこなうことも可能です。
(*出典:生化学辞典第4版、東京化学同人)

図7 磁性ビーズでIP後のウエスタンブロッティング

1000_Fig3_dynabeads_ip_wb.jpg
1000_Fig3_dynabeads_ip_nonspecific.jpg

A: Jurkat cell lineのライセートからCD81タンパク質を磁性ビーズで免疫沈降後、ウェスタンブロッティング
B: 非特異結合の比較(銀染色)
Dynabeadsは短時間で高収率に回収できています。

参考文献:DynabeadsによるIP、ChIP、RIP、CLIP

IP(免疫沈降)

ChIP(クロマチン免疫沈降)

RIP(RNA免疫沈降)

CLIP(UVクロスリンク免疫沈降)

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初めてIPを行いたい方や、他の方法でIPを行っていてDynabeadsによるIPを試したい方が対象です。

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