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研究者の声

2023/02/14

ES/iPS細胞の効率的なゲノム編集のための基盤技術の開発 研究者の声【38】

  • 用途別細胞培養

我々の体を構成する設計図である遺伝子が何らかの原因で変化することを遺伝子変異といい、遺伝子変異は細胞のトランスクリプトーム・エピゲノム・プロテオームな変化を引き起こすことで、がんなどの疾患を引き起こします。 とくに血液疾患にはさまざまな遺伝子変異が関わることがわかってきました。家族性血小板異常症(familial platelet disorder: FPD)は生殖細胞系列における、造血マスター遺伝子RUNX1のヘテロ接合体変異により発症する疾患です。FPD患者の約25-50%が急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia: AML)へと進展することから、FPDは前がん状態として非常に危険な状態です。しかしFPDに対する明確な治療法はありません。FPDからAMLへの進展には、RUNX1変異に加えて、さらなる遺伝子変異が蓄積することが原因と考えられています。FPDの病態、ならびにFPDからAMLへの進展メカニズムを明らかにすることはこれら疾患に対する新薬・新規治療法の確立に非常に重要でありますが、FPDが希少疾患であり患者由来の疾患モデル例がごくわずかであることから、これら一連の病態は十分に理解されていません。 近年の人工多能性幹細胞(iPS細胞)の確立とゲノム編集技術CRISPR-Cas9システムの発展から、患者由来、あるいは遺伝子変異の導入による疾患モデルES/iPS細胞の樹立が簡便にできるようになりました。変異を起こしたい部位を特異的に認識するようなCas9-ガイドRNA複合体をドナーDNAと共に細胞内に導入したのち、バルク状態の細胞からシングルセルクローニングを行うことで目的変異をもった細胞株を樹立します。 シングルセル化したiPS細胞を培養する際にはY-27632(Rock inhibitor)を添加する必要性があり、その際の生存率を向上させることは単一クローンの増殖速度の増加、ひいては細胞株樹立までの効率を上げることに繋がります。特に、エレクトロポレーション後のように高いストレスにさらされた細胞の生存率は低下する傾向にあり、ゲノム編集後のiPS細胞の生存率の改善は、より多くのコロニーを得ることにより、試験系の反復回数や、ワークフロー自体の短縮につながります。 本検討では、臍帯血由来の610B1株と皮膚由来の409B2株を用い、Y-27632およびSTEMCELL Technologies社製造のCloneR™とCloneR™2を使用してシングルセルからのコロニー形成能を比較しました。

研究者紹介

田中 優希 様

理化学研究所 生命医科学研究センター
細胞機能変換技術研究チーム

※ 所属や役職等は掲載当時のものです

方法および材料

  1. Day 0に70-80%コンフルエンシーのiPS細胞(12-Well Plate維持)
  2. 1 mLのD-PBS(-/-)で洗浄、アスピレート
  3. 500 uLのReLeSRを添加、ウェルに満遍なく行き渡らせた後アスピレート除去
  4. 37℃, 4分間インキュベート
  5. 1 mLのmTeSR Plusを添加しプレートの側面を30回程度軽く叩く
  6. 細胞回収 遠心分離、1,000 rpm, 4℃, 5分間
  7. 1 mLのAccutaseを添加、37Cに温めた湯浴中で5分間インキュベート
  8. P1000ピペットマンでサスペンド
  9. 1 mLのmTeSR Plusを添加しサスペンド
  10. 遠心分離、1,000 rpm, 4C, 5分間
  11. CloneR/CloneR2/Y-27632含有培地で再懸濁
  12. セルカウント
  13. 1,000 cells/mLになるように段階希釈
  14. 1 wellあたり2 mLのCloneR/CloneR2/Y-27632含有培地を6-Well Plateに添加
  15. 細胞懸濁液から36 uL取って細胞播種 Day 1-8にプロコトルに従って培地交換 Day 8にて写真撮影と記録

結果

図は610B1株と409B2株のコロニーを8日目の段階にて検鏡した際の写真となる。 CloneR2は既存のY-27632(Rock inhibitor)やCloneRと比較してクローニング効率を向上させ、コロニーサイズを増大する傾向にあった。さらに、CloneR2は1度の試行で得られる単一クローンの数が他2製品と比較して多い傾向にあった。これらのことから、細胞株の由来などに応じて、細胞の増殖やその形態は異なってくるが、短期により多くの細胞が得られることは、ゲノム編集後のコロニーの単離や、検討の際に有用であると考える。

図.610B1株と409B2株のコロニー像

研究者の声37.png

結論

培地に添加し少ない回数で培地交換を行うだけで、単一クローンが速く・多く、最小限の人的負担とコンタミリスクで得られたため非常に大きなメリットのある製品だと感じました。CloneR2の応用により疾患モデル細胞等の樹立が促進され、疾患メカニズムの解明、ならびに創薬研究や遺伝子治療などに広く用いられることが期待されます。

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