ラーニングコーナー
2018/08/03
Laminin-521/511(ラミニン)を用いた、がん幹細胞の培養法・実績をご紹介
- 用途別細胞培養
ラミニンは、がん幹細胞ニッチ(微小環境)の重要な要素としてがん幹細胞の増殖を維持し、上皮間葉転換(EMT)および基底膜リモデリングの制御を含む腫瘍血管新生、細胞浸潤および転移進行に重要な細胞事象を制御することが示されています。この新たな研究領域においては、ラミニンががん幹細胞に対する潜在的な治療標的であり、予測マーカー(predictive marker)および予後マーカー(prognostic marker)として使用される可能性が示唆されています。
Laminin-521と神経系の腫瘍細胞
Laminin-521:神経系のさまざまな腫瘍細胞の培養に良好なマトリックスを提供
Laminin-521は多能性幹細胞の生存・遊走を促進し、分化よりも細胞増殖に関与します(Miyazaki, 2008; Rodin, 2014)。Laminin-521はまた、神経芽細胞腫、膠芽腫および髄芽腫細胞のようなさまざまながん細胞の培養のための良好なマトリックスであることが示されています。
異なる神経芽細胞腫由来細胞株の遺伝子発現解析では、α-5, α-4, β-1およびβ-2ラミニン鎖の発現上昇が確認されており、Laminin-521, -511, -411 および -421の発現が判明しています(unpublished data)。つまりLaminin-521は、神経芽細胞腫由来細胞株の培養に適しているといえるでしょう。
Laminin-521は、in vitroで維持する困難な髄芽腫細胞の培養にもサポートします(unpublished data)。公開された論文でMaらは、遺伝子・タンパク質発現のレベルで、α-5, α-4のラミニンが膠芽腫の幹細胞性の促進に特殊効果があることを示しました。3Dコンテキストと組み合わせたLaminin-521, -511, -421および -411で培養したU251膠芽腫細胞は、インテグリンα6β4の相当程度のアップレギュレーションおよびクローン原性を強化することが分かりました(Ma, 2016)。
Laminin-511と乳がん幹細胞
Laminin-511:乳がん幹細胞の自己複製を促進し、転移性乳腺腫瘍に対してin vitroの接着性および移動性をサポート
ヒト組み換えラミニン「Laminin-511」は、細胞培養用基底膜として乳がん幹細胞(CSCs)にとって重要なニッチ要素です。
Changらは、乳がん幹細胞を産生するLaminin-511がインテグリンα6β1のリガンドとして機能し、自己複製および腫瘍イニシエーションおよびHippoトランスデューサTAZ(Hippo transducer TAZ)の活性化を促進することを示しました。
TAZはラミニンα-5サブユニットの転写およびLaminin-511マトリックスの形成を制御し、乳がんの幹細胞性に寄与するTAZとLaminin-511の間のポジティブ・フィードバックループを確立します(Chang et al., 2015)。
また、Laminin-511は転移性乳腺腫瘍細胞に対してin vitroでの接着性および移動性をサポートする基質であり、Laminin-511の発現はin vivoでの腫瘍悪性度および転移の可能性と相関します。
転移性乳腺腫瘍細胞の移転および浸潤反応は、主としてインテグリンα3β1細胞受容体を介することが示されています(Kusuma et al., 2011)。
ラミニンを使用するメリット
- ゼノフリーかつdefinedな組成
- 生体内と同じ環境で培養可能
- がん幹細胞(CSC)ニッチの重要な要素
- CSC増殖の維持および重要な細胞事象の制御
- 様々ながん細胞の培養に使用可能