ラーニングコーナー
2020/12/17
StemSpan SFEM IIとUM729を使用したCD34陽性細胞の無血清培養増殖
- 用途別細胞培養
STEMCELL Technologies社では、CD34陽性細胞の増殖に使用する無血清の培地とサプリメントを提供しています(こちらを参照)。
この技術ヒント集では、StemSpan™ SFEM II 培地、StemSpan™ CD34+ Expansion Supplement、および各種の小分子を利用して、CD34陽性細胞を無血清条件で大量培養する方法について紹介します。これらの培養条件では、未熟なCD34+CD45RA-CD90+ 前駆細胞を7日間の培養で10倍以上まで増殖できます。
本稿は、STEMCELL Technologies社ウェブサイト(https://www.stemcell.com/serum-free-expansion-of-cd34-cells-with-sfem-ii.html)の内容を簡易訳したものです。
準備するもの
- CD34陽性細胞(新鮮または凍結保存サンプル)
- StemSpan™ SFEM II Medium
- StemSpan™ CD34+ Expansion Supplement
- 細胞培養プレート *
- オプションとして: UM729 **
* サイズやフォーマットは、実験規模に応じて決定します(Table1参照)。
** UM171を終濃度 175 nMで添加した場合も、(UM729 終濃度 1μMの場合と)同等の結果が得られます。
ステップ1. CD34陽性細胞の取得
CD34陽性細胞は、臍帯血(cord blood; CB)や骨髄(bone marrow; BM)から分離し凍結された細胞の購入(こちらを参照)、または、新鮮なCBやBMサンプルからの分離(カラムフリーの細胞分離がおすすめ)によって得られます。
サンプルの細胞供給源を決める際によくある疑問:
- 新鮮あるいは凍結保存されたプライマリー細胞、どちらを使えば良いでしょう?
新鮮あるいは凍結保存されたCD34陽性細胞のいずれも増殖に使用できます。サンプルに造血前駆細胞が十分に含まれており、全体としての品質や生存率が良好なら、どちらの細胞でも望ましい結果を得られます。
細胞品質の差異は、同じドナーにおける新鮮・凍結保存サンプル間よりも、異なるドナー由来CBの個々のサンプル間の方が大きいことがよくあります。通常は「高品質」のCBサンプル由来の凍結保存細胞を使用する方が、「低品質」のCBサンプル由来の新鮮細胞を使用するより良い結果を得られます。 - 新鮮または凍結保存された、全血およびBMサンプルがあります。CD34陽性細胞の分離に、どのEasySep™キットを使用したら良いでしょう?
各サンプルに適した細胞分離製品の選択については、造血前駆細胞の分離 / Isolating Hematopoietic Progenitors(STEMCELL Technologies社ウェブサイト)を参照してください。
なお、新鮮CBからのCD34陽性細胞分離に最適な製品は、EasySep™ Human Cord Blood CD34 Positive Selection Kit II です。
ステップ2. 培養系のセットアップ
CD34陽性細胞は、SFEM II 培地を使用して任意の培養器で増殖させることができます。Table1 は、推奨される3種類の培養器フォーマットに播種する、CD34陽性細胞数を決定する際に使用します。数値はあくまでガイドラインとしての値であり、最適な培養フォーマットや細胞濃度は実験の目的や細胞の品質に依存します。
Table1. 異なる培養プレートにおけるCD34陽性細胞の一般的な推奨播種濃度
* 培養器は、付着細胞培養用(tissue culture-treated)、浮遊細胞培養用(non-tissue culture-treated)とも使用でき、CD34陽性細胞の増殖に与える影響は確認されていません。
** StemSpan™ CD34+ Expansion Supplement は10倍濃縮(10X)、10 mLで提供されます。これは、90 mLのSFEM II 培地に添加して1X として使用できる分量です。
推奨の培養プロトコル
培養0日目(Day 0) - Table1の推奨条件を参照し、CD34陽性細胞をSFEM IIベースの培地(10 mLのStemSpan™ CD34+ Expansion Supplement(10X)を90 mLのSFEM IIに添加。UM729は、添加(終濃度 1μM*)または非添加。)に懸濁してプレーティングします。UM729に代わってUM171を終濃度 175 nMで使用することもできます(Figure1)。
培養7日目(Day 7) - 細胞を回収し、評価またはアプリケーションに使用します。
ご注意: 7日間という培養期間は、細胞の回収量、CD34の発現、そして前駆細胞の機能の観点から最良のタイミングとして決定されました。
細胞の回収量よりもCD34発現や前駆細胞の機能の温存を優先する場合には、培養期間を短縮できます。細胞の回収量を最優先する場合には、7日を超えて培養することもできます。培養期間が長くなるにつれて細胞の分化が進むため、CD34の発現や前駆細胞としての機能は低下する点にご注意ください。
7日より長くCD34陽性細胞を培養する場合には、細胞の増殖と生存を維持するために、培養4日目に給餌をおこない、培養7日目に細胞を新鮮なサプリメント入り培地に希釈および/または再播種します。給餌は、培養4日目に培養中の培地と等量の新鮮なサプリメント入り培地を添加、または培地の半量を交換しておこないます。
* 特定の条件下で細胞増殖を最適化するには、さらに条件検討を要する場合があります。
ステップ3. 培養後のアプリケーションと定量的な解析
培養後には、トリパンブルーと血球計算盤、または自動セルカウントなどを使用して、全細胞数と生細胞数をどちらもカウントし、フローサイトメトリーで細胞のCD34発現を測定することが推奨されます。CD34陽性細胞のサブセット、および/または培養中に生じた分化細胞(CD34陰性細胞)を同定するために、追加のイムノフェノタイピングを行う場合もあります。
イムノフェノタイピングや蛍光標識細胞分取(fluorescence-activated cell sorting; FACS)に関する詳細は、「ヒト造血幹細胞・造血前駆細胞のフェノタイプ」のポスターに記載されています(ポスターお申込みはこちら)。
ご注意: CD34陽性細胞上の抗原(CD34)の発現は培養中に変動するため、培養されていない細胞のCD34発現のように細胞の分化段階や多分化能の指標として使用するには適当でない可能性があります。例えば、CD38の発現レベルが低~検出不能なプライマリーのCD34陽性細胞(CD34+CD38-)には、造血幹細胞や未熟な造血前駆細胞が豊富に含まれますが、増殖培養中に検出されるCD34+CD38- 細胞はそれほど未熟ではない可能性があります。
期待される結果
CD34+ Expansion Supplement を添加したSFEM II 培地は、CD34陽性細胞の培養による増殖をサポートします。小分子のUM729またはUM171を添加すると、CD34+CD45RA-CD90+ 細胞などの未熟なサブセットのみならず、CD34陽性細胞の増殖もさらに亢進します(培養7日目において、小分子を添加していない培養系と比べて10倍程度亢進)。
生体外(ex vivo)で増殖したCD34陽性細胞は、コロニー形成ユニット(CFU)アッセイ(こちらを参照)や、iPS細胞へのリプログラミングなど様々なアプリケーションに利用できます。
この技術ヒント集はSTEMCELL Technologies社のHematopoiesis Hub のコンテンツの一つです。このサイトには、他にも製品の技術ヒント集や、各研究分野のエキスパートたちの声などが掲載されています。