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研究者の声

2022/11/14

ES/iPS細胞の臨床利用に向けた基盤技術の開発 研究者の声【35】

  • 用途別細胞培養

TeSR™-AOF(ST-100-0401)を用いたヒト多能性幹細胞培養における、培養基質の違いについての検討事例をご紹介します。

研究者紹介

researcher35-kawase.jog川瀬 栄八郎 先生

京都大学医生物学研究所
 附属ヒトES細胞研究センター 臨床基盤分野 准教授

附属ヒトES細胞研究センター 臨床基盤分野HP

※ 所属や役職等は掲載当時のものです

はじめに

ヒトES細胞を効率的に2次元培養する方法は、ほぼ確立されたといえる状況になってきている。
しかしながら、目的細胞に効率的に分化誘導をおこなうという側面からは、未分化維持培地の組成がシンプルであり、同時にアルブミンなどが含まないものが望まれている。
そのような培地も現在開発されているが、逆に未分化培養をおこなうのは簡単でないことも多い。
また、培地交換を毎日おこなうことなく、できればweekend freeでも問題なく培養できるような培地が昨今は望まれている。

このような目的から今回TeSR-AOFの評価をおこなった。

方法及び材料

下記のES細胞株と培養基質にて2週間培養をおこなった。

使用した細胞株

  • ES細胞株:H9 (WA09), KhES-1

使用した培養基質(供給メーカー(カタログ番号)と、コーティング密度)

今回用いた培養基質はいずれもメーカーの製品プロトコールに従いコートした。

  • Matrigel® (Corning, #356234): 10 µg/cm2 *
    * 自分でロットチェックしたものを用いているが、hESC-qualifiedのもの(#354277)も購入できる。
    今回40倍希釈したものでコーティング(Martigelは室温で3時間以上、または4度でovernightにて静置し融解。80-100倍希釈しても問題なく使えることも多いが必ずテストしてからおこなうこと)。

  • Biolaminin 521 LN (BioLamina, BLA-LN521): 2 µg/cm2

  • iMatrix-511 silk * (Matrixome, 902021): 0.5 µg/cm2
    * 臨床研究用にはMGのものを直接購入可能。
    研究用にSilkでないもの販売されているが、研究用目的なら安価なSilkでも特に問題ない。

  • Vitronectin XF™ (STEMCELL Technologies, ST-07180): 1 µg/cm2 *
    * 今回製品プロトコールの倍の濃度で検討したが、製品プロトコールの濃度で問題ないと考える。

  • Vitronectin (Thermo Fisher, A14700): 1 µg/cm2

結果

Matrigel H9株をTeSR AOFで培養した様子
LN-521 H9株をTeSR AOFで培養した様子
iMatrix-511 H9株をTeSR AOFで培養した様子
VN-XF H9株をTeSR AOFで培養した様子
VN-N H9株をTeSR AOFで培養した様子

Researcher35_results.png
*略字(商品名):Matrigel、LN-521 (Biolaminin 521 LN)、iMatrix-511 (iMatrix-511 silk)、VN-XF (Vitronectin XF)、VN-N (Vitronectin)

結論

TeSR-AOFは培養基質としてMatrigel、Vitronectin(Vitronectin、Vitronectin XF)、LN521、iMatrix-511を用いて培養すれば問題なく現在利用している培養方法とほぼ同等に培養できる。一部の細胞株によってはVitronectinを用いた場合、十分に接着できない場合があり注意が必要である。
ただし、一旦十分に接着できた細胞は問題なく成長できる。

今回の実験では取説に従いY-27632を使用せずに継代をおこない、特に問題はなかった。
私の予備実験ではVitronectinの場合はY-27632を添加することで他の培養基質と同等に近い結果が得られる。
他の培養基質ではY-27632を添加しても、特に改善は見られなかった(Y-27632を添加しなくても十分な細胞接着を示すため)。

培養基質の最適濃度は、経験的に細胞株、培地などによって異なることが多く、LN521やiMatrix-511では製品プロトコールよりも低濃度でも問題なく培養できることが多い。ES細胞として直接播種し、その後すぐに分化誘導を進める方法では、Vitronectinを用いた方が誘導効率がよい場合も考えられる。
より多くの培養基質に適しているTeSR-AOFではそのような活用も可能であろう。

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