ラーニングコーナー
2020/12/14
ヒト多能性幹細胞(hPSC)の形態評価
- 用途別細胞培養
ヒト多能性幹細胞(human pluripotent stem cell:hPSC)の一連の培養には、他の一般的な接着細胞にはない独特な注意すべきポイントがあります。長期間にわたって健康な細胞を未分化な状態で維持・増殖させていくためには、注意深いモニタリングと細胞の取り扱い技術が非常に重要となります。
視覚による評価は主観的になってしまう可能性はありますが、外観の変化はhPSCの品質を反映する高感度な指標です。培養している細胞は、光学顕微鏡を用いた位相差観察で毎日検査をおこない、継代可能かどうかチェックするとともに細胞品質をモニタリングする必要があります。
しかし、外観の変化が必ずしも全て細胞の品質低下を示唆しているとは限りません。エンドユーザの熟練度などを含む様々なファクターによって細胞の外観にバリエーションが見られるのが通常です。この技術ヒント集では、高品質の細胞に見られるべき形態、一般的に見られる問題のない形態バリエーション、細胞の品質低下を示唆している可能性があるその他の形態バリエーションについて記載しています。
併せてこちらも(https://www.stemcell.com/technical-resources/methods-library/cell-culture/pluripotent-stem-cells/maintenance-of-pluripotent-stem-cells/assessing-morphology-of-hpscs.html)ご確認ください。
健康なコロニーの形態と通常の形態バリエーション
hPSCの品質は継代の直後2-3日は評価する事が難しく、その後コロニーが成熟するにつれて評価がしやすくなっていきます。評価指標となる特徴は通常、継代に最適なタイミングの約48時間前に見られるようになります。低倍率の顕微鏡観察では、健康で高品質なhPSCには下記の特徴が見られます。
- 比較的丸みを帯びたコロニー
- コロニー内は細胞が詰まった構造であり、細胞は細胞質に対する核の比率が高く、核が細胞全体に広がっている
- 顕著な核小体
- コロニーの中心部は非常に高密度になっており、位相差顕微鏡の観察では明るい領域として見える場合がある
Figure 1. 至適継代タイミング間近の高品質hPSCコロニー
コロニーの外観には、最後に継代または給餌をおこなってからの経過日数、使用した細胞株、継代方法、使用しているマトリクスなど、いくつかの要因が影響する事が考えられます。ここでは、培養中に気になる可能性のある形態バリエーションのうち、異常ではなく必ずしも細胞の品質低下を示していないものについてご紹介します:
1. 継代後初めの数日に見られる、縁が「スパイク状の」コロニーや細胞の充填度が低いコロニー
播種の後4日間までは、コロニーは広がりながら形成が進む過程にあり、充填度は低い場合があります。この時点でコロニーの縁がスパイク状に尖っていたとしても問題ありません。この後、コロニーの内部密度や構造安定性は急速に上昇し、継代前の1-2日で形態が顕著に変化します。
Figure 2. 継代2日後のヒト胚性幹(ES)細胞(H9株)コロニーに見られるスパイク状の縁(オレンジの矢印)。
2. 非対称な形態のコロニーや融合したコロニー
特に継代に向かう時期には、コロニーの中には若干非対称に見えたり、融合して見えたりするものがあります。これらは通常問題ありません。コロニーの融合は細胞塊が低密度で播種されたり、よく拡散されなかったりした際にも起こることがありますが、これも問題ありません。コロニーの対称性は細胞株の種類だけでなく使用したマトリックスによっても変化しうるものであり、一般に Vitronectin XF™ を使用して培養したhPSCの場合には、コロニーはより稠密で対称な外観となります。
Figure 3. (A) Vitronectin XF™上で培養したヒト人工多能性幹(iPS)細胞(WLS-1C株)と、(B) Corning® Matrigel®上で培養したヒト胚性幹(ES)細胞(H9株)
細胞の品質低下を示している形態バリエーションの例
ここでは、細胞の品質低下を示している可能性がある注視すべきコロニー形態の例をご紹介します。
- 分化した領域
- 健康なhPSCコロニーでは低頻度(5-10%)の自発的分化(spontaneous differentiation)が見られるのが通常です。しかし、分化した領域が拡大してくる場合は細胞の品質低下の指標となります。とりわけ、分化の視覚的な兆候は幹細胞マーカー発現の低下に先立って認められます。
- 健康なhPSCコロニーでは低頻度(5-10%)の自発的分化(spontaneous differentiation)が見られるのが通常です。しかし、分化した領域が拡大してくる場合は細胞の品質低下の指標となります。とりわけ、分化の視覚的な兆候は幹細胞マーカー発現の低下に先立って認められます。
- 細胞品質が低下したコロニーの形態的特徴:
- 自発的分化をした細胞領域の増加(>10%)
- コロニー内部の均一性の喪失
- 位相差観察で明るい、または多層の領域がコロニー中心部ではなく、「まだら」に散在しているように見える
- コロニー境界の完全性の欠如
- 細胞の充填度が低い
Figure 4. STiPS-M001細胞株のコロニーに見られる(A)自発的分化をした領域、および(B)コロニー境界の不明瞭化と分化細胞(それぞれオレンジの矢印)
Figure 5. hPSCコロニーに見られる(A)稠密に詰まった細胞群、および(B)位相差観察で明るく見える細胞間ギャップを有する緩く詰まった細胞群(オレンジの矢印)
さらに詳細な情報については、技術マニュアル(mTeSR Plus またはmTeSR 1によるヒト多能性幹細胞の維持 Maintenance of Human Pluripotent Stem Cells in mTeSR™ Plus or mTeSR™1)をご参照ください。
もしもご使用されているhPSCの形態や品質にご不安の場合には、株式会社ベリタスまでご連絡を頂けましたらご対応させて頂きます。