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2018/08/29
ヒトES/iPS細胞から長期培養可能な「ミニ腸」オルガノイドを効率良く作製!
- 用途別細胞培養
ヒト多能性幹細胞(ヒトES/iPS細胞、hPSCs)は、疾患モデル、ドラッグスクリーニングおよび再生医療に対して非常に重要なツールです。
最近の研究により、ヒトES/iPS細胞は発達においてシグナル伝達経路を模倣することで、組織特異的な細胞へ分化できることが示されています。
分化の特定段階における成長因子のタイミング、持続時間および濃度が、細胞の運命や細胞系列へ分化決定の重要な要因になります。
本稿では、ヒトES/iPS細胞から小腸オルガノイドを高効率かつ再現性良く形成することができる「STEMdiff Intestinal Organoid Kit」について、特長やデータをご紹介いたします。
STEMdiff Intestinal Organoid Kit 概要
ヒトES/iPS細胞からヒト腸管オルガノイド(Human Intestinal Organoids:HIOs)への分化・形成を標準化するために、STEMCELL Technologies社は、Jason Spenceら(Spence et al., Nature. 2011 Feb 3;470(7332):105-9)のin vitroでHIOsへ分化・形成するプロトコールに改良を加え、STEMdiff Intestinal Organoid Kit(商品コード:ST-05140)を開発しました。
STEMdiff Intestinal Organoid Kitは、ヒトES/iPS細胞から3段階(1. 胚体内胚葉、2. 中/後腸、3. 小腸)で腸オルガノイドへの分化を促進する、効率的で再現性が高い無血清培養系です。
ヒトの発生と内胚葉器官形成
STEMdiff Intestinal Organoid Kitではヒトの発生過程(左図)に倣い、未分化のヒトES/iPS細胞から中内胚葉の重要な段階を経て、効率的に胚体内胚葉を誘導・形成し、さらに中腸および後腸の前駆細胞を生じる後方内胚葉を形成します。これらの前駆細胞は、重要な転写因子 Caudal Type Homeobox Protein 2(CDX2)を発現し、さらに分化すると小腸細胞に成熟します。
腸オルガノイド形成のプロトコールと分化段階の形態変化
STEMdiff Intestinal Organoid Kitは、30日間以内でヒト腸管オルガノイドを形成できる、効率的で再現性の高い無血清培地です。他のプロトコールと比較して、ヒトES/iPS細胞株を問わずHIOsの形成を促進できます。ヒトES/iPS細胞由来HIOsは、STEMdiff Intestinal Organoid Growth Medium(商品コード:ST-05145)を用いて長期培養(>11 month, n=3)・増殖し、凍結保存することも可能です。
2Dモノレイヤーから3Dドーム培養への移行
STEMdiff Intestinal Organoid Kitでは次のように、単層培養からスフェロイドを経て腸オルガノイドを形成します。
- スフェロイドの形成・出芽
- スフェロイドの回収
- Corning® Matrigel®ドームへの埋め込み
- HIOsへの分化
データ紹介:単層分化とスフェロイド形成
中/後腸マーカー(CDX2)の発現誘導
STEMdiff Intestinal Organoid Kitは、効率的に中/後腸マーカー(CDX2)の発現を誘導します。
分化したモノレイヤーの免疫染色
分化した2Dモノレイヤーでは、以下のマーカーを発現する細胞の頻度が非常に高くなっていました。
中/後腸マーカー:CDX2、上皮マーカー:E-カドヘリン、間葉系細胞マーカー:ビメンチン
分化した中/後腸モノレイヤーの定量分析
分化した中/後腸モノレイヤーをフローサイトメーターで定量分析しました。
複数のES細胞(H9、H7)、iPS細胞(WLS-1C、STiPS-M001)株において、後方内胚葉マーカー(CDX2)が発現上昇した一方で、前方前腸マーカー(SOX2)が発現していないことを示します(mean±SD, n≥2)。
3Dスフェロイドの効率的な形成・出芽
STEMdiff Intestinal Organoid Kitにより、2Dモノレイヤーの中/後腸から効率的に3Dスフェロイドへ形成・出芽します。
8日目のモノレイヤーと浮遊する後腸スフェロイド
スフェロイドの出芽形成と個数
分化8日目の、WLS-1C細胞由来の画像を示します。
左:接着状態で出芽している後腸スフェロイド
右:培養上清に放出されたスフェロイドを回収し、定量分析のため懸濁液にした状態
テストした4種の細胞株はいずれも中/後腸スフェロイドを形成できましたが、細胞株内在性の変動による出芽頻度の違いがみられました。
4~11日目の分化過程で放出されたスフェロイド数の定量分析
細胞株:STiPS-M001;mean±SD
放出された中/後腸スフェロイドの免疫染色
分化9日目のスフェロイドの極性化した上皮では、CDX2、E-カドヘリン、EpCAMが発現していました。
スフェロイドの間葉では、ビメンチン、CDX2が発現し、EpCAMは発現していませんでした。
データ紹介:小腸オルガノイド
腸オルガノイドの増殖と分化
ヒトES/iPS細胞由来のHIOsは、STEMdiff Intestinal Organoid Kitで急速に増殖し、腸・間葉系細胞の重要なマーカーを長期にわたって発現します。
腸オルガノイドの形態
ヒトES/iPS細胞由来のHIOsは、出芽形成を伴う厚壁の極性化した上皮構造の表現型、および中央の中空な内腔を取り囲む薄壁上皮の嚢胞性のオルガノイド形態を示します。
腸オルガノイドの増殖
複数のES細胞株(H9、H7)、iPS細胞株(WLS-1C、STiPS-M001)に由来するHIOsは、STEMdiff Intestinal Organoid Growth Mediumで培養すると高い増殖速度を示しました(mean±SD, n=3)。
分化した腸オルガノイドのマーカー発現
28~110日間分化したHIOsは、腸管上皮・間葉系細胞の重要なマーカーを継続的に発現します。いずれもqPCRのデータ(mean±SD, n=1)。
分化した腸オルガノイドの免疫染色
H9 ES細胞から分化193日目のHIOsを免疫染色しました。
腸オルガノイドには腸細胞・杯細胞・腸内分泌系特異的マーカー(CDX2, MUC2, EpCAM, KRT20, GATA4, SOX9, CHGA)、および間葉系細胞マーカー(デスミン、ビメンチン)が発現していました。Ki67の発現から細胞増殖を確認でき、オルガノイド長期培養を可能にする推定腸管幹細胞の存在が示されます。
350日以上維持培養した後に1か月間凍結保存したHIOsは回復し(n = 3)、再びSTEMdiff Intestinal Organoid Growth Mediumで培養を続けることができました。