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2020/06/22

「STEMdiff Neural Crest Differentiation Kit」ヒト多能性幹細胞から神経堤細胞へ効率的に誘導

  • 用途別細胞培養
  • 創薬支援

感覚神経と痛みの研究に適した"ヒト感覚ニューロン"を作製する最初のステップには、STEMCELL Technologies社の「STEMdiff™ Neural Crest Differentiation Kit」がおすすめです。このキットを使用することで、ヒト多能性幹細胞(hPSC, ヒトES/iPS細胞)から再現性良く、神経堤細胞をこれまでにない高純度で誘導できるようになりました。

本稿では、「STEMdiff™ Neural Crest Differentiation Kit」の特長、および感覚神経と痛みなどの研究分野にもたらすメリットをご紹介します。

感覚神経と痛みの研究の現状

慢性の痛みと研究モデル

慢性の痛み(慢性疼痛)に悩まされる患者は、日本国内だけで約2,000万人いるともいわれています。慢性疼痛は長期の障害を引き起こす最も一般的な原因となっており、世界人口の15%以上が影響を受ける社会問題でもあります1。末梢感覚ニューロンが関わる痛みの研究には以下のモデルが用いられていますが、それぞれに課題があります。

神経細胞株

ほとんどの神経細胞株は、持続的な痛みのメカニズムの研究には適していません。痛みの研究に一般的に使用される神経細胞株、すなわち「SH-SY5Y」と後根神経節ハイブリドーマ細胞株の「F-11」および「ND7 / 23」は、TRPチャネル、カリウムチャネル、または電位依存性ナトリウムチャネルNa(v)1.8 とNa(v)1.7の遺伝子を発現しません。これらはすべて痛みの調節に重要です。

動物モデル

動物モデルには薬理学的研究にとって重要な、ヒトとの関連性がありません。げっ歯類後根神経節(dorsal root ganglion, DRG)から得られる一次感覚ニューロンもヒト末梢感覚ニューロンとは異なりますが、関連するイオンチャネル遺伝子を発現し、末梢神経系(PNS)の持続性疼痛のメカニズムを研究するために最適な細胞モデルとして広く見なされています。しかし、それらを使用するには動物を殺さなくてはなりません。

ヒト多能性幹細胞(hPSC)由来の末梢感覚ニューロン

hPSCから神経堤細胞を誘導し2,3、さらにヒト末梢感覚ニューロンに分化させることが可能です。しかし、未だ確立された方法がなく分化効率や再現性にも課題があります。DRGに比べ、痛みの研究への使用実績が圧倒的に少ないものの今後の発展が期待されます。

 

神経堤細胞とは

神経堤細胞 ― 複数の細胞タイプを生成

神経堤細胞(神経冠細胞、Neural crest cell、NCC)は、脊椎動物の胚発生中に発生する多能性幹細胞(multipotent stem cell)です。 NCCは神経板の境界で形成され、その後神経管から剥離し、さまざまな場所に移動し、頭蓋顔面骨格、末梢および腸神経系、色素細胞、および他の多くの細胞タイプと臓器を含む幅広い派生物を生み出します。そのため神経堤は内胚葉、中胚葉、外胚葉の3胚葉に次ぐ、4番目の胚葉と呼ばれてきました。

 

神経堤細胞が関わる疾患

神経堤細胞の機能不全は以下のような疾患を引き起こします。口蓋裂/口唇裂やヒルシュスプルング病といった先天性欠損症や、神経芽細胞腫やメラノーマのような神経堤系統に由来するがんが含まれます。

  • ヒルシュスプルング病(先天性巨大結腸症) ― 神経堤由来の腸ニューロンが消化管を正しく神経支配しないことにより、蠕動運動や腸の運動性が失われる
  • 口唇裂/口蓋裂 ― 神経堤由来の頭蓋顔面細胞が関わる一般的な頭蓋顔面障害
  • トリーチャー・コリンズ症候群 ― 頭蓋顔面障害の一種
  • 神経線維腫症1型 ― 腫瘍が神経に蓄積する疾患で、3000人に1人が何らかの形で患っている
  • 神経芽細胞腫 ― 体全体および皮膚表面の神経で増殖する可能性のあるがん
  • メラノーマ(黒色腫) ― 神経堤由来のメラノサイトからの皮膚がん
  • 末梢神経障害/末梢痛 ― 神経堤細胞を前駆体とする感覚ニューロンおよび末梢神経系が関与

 

神経堤細胞を用いた研究のために

ヒト神経堤細胞(神経冠細胞、Neural crest cell、NCC)の入手は非常に難しいため、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から誘導したNCCを用いてその発生と疾患をモデル化することが研究を進める上で重要です。
下図では、患者由来の体細胞から樹立したiPS細胞を神経堤細胞に誘導し、さらに目的の細胞に分化させて疾患モデルなどに応用する研究ワークフローと、各ステップにおすすめの培地製品を示しています。

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神経冠細胞(NCC)の単層培養を効率的におこなえます

STEMdiff™ Neural Crest Differentiation Kit

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STEMdiff Neural Crest Differentiation Kitは、ヒト多能性幹細胞(hPSC)を神経堤細胞(神経冠細胞、Neural crest cell、NCC)に分化させるための無血清培地です。hPSCから効率的に多能性のSOX10+ CD271+ NCCへ、かつPAX6+ 神経外胚葉性細胞を低く抑えて再現性良く分化させることができます。従来法と比べてもSOX10+ NCCの形成効率が向上しています。
神経堤細胞は、感覚ニューロン、シュワン細胞、腸ニューロン、頭蓋顔面ニューロン、メラノサイト、骨細胞、軟骨細胞を含むいくつかの下流の細胞に分化できます。

NCCから感覚ニューロンへ分化・成熟させる「STEMdiff™ Sensory Neuron」については、以下をご覧ください。

iPS細胞由来神経細胞の研究におけるスタンダード

ReproTeSR™

ReproTeSR™(2-Component)は、線維芽細胞、尿由来細胞、CD34+や赤血球前駆細胞などの血液由来細胞からフィーダーフリー条件下でヒトiPS細胞を生成するために開発された、ゼノフリーのリプログラミング用完全培地です。

mTeSR™ Plus-cGMP

「mTeSR™ Plus-cGMP」は、緩衝作用(pH)の改善とFGF2の安定化を実現した、ヒトES/iPS細胞維持用の無血清培地です。培養中の培地酸性化を抑えることで、遺伝的変異を含むhPSCへのダメージを軽減します。培地交換も週2回で問題ありません。

MesenCult™-ACF Plus

ヒト間葉系幹細胞の長期培養をサポートする、動物性成分フリーの培地です。STEMdiff Neural Crest Differentiation Kit で得られた神経堤細胞を中胚葉系列へと分化させる場合、あらかじめこの培地中で増殖させることができます(3継代まで)。

 

BrainPhys™

神経細胞の最適な成熟と活性のために、生理学的条件を考慮して開発された新しいニューロン用基礎培地です。

 

NeuroCult™ SM1 Neuronal Supplement

神経細胞の成熟と長期培養をサポートするサプリメントです。B27の組成に基づき最適化されており、B27の代替としてもおすすめです。

 

STEMdiff™ Intestinal Organoid Kit

ヒト多能性幹細胞から腸管オルガノイドを形成するための無血清培地です。腸管オルガノイドと神経堤由来の腸ニューロンとの共培養系は、ヒルシュスプルング病(先天性巨大結腸症)などの腸疾患の研究に有用なツールとなるでしょう。

 

関連ウェビナー紹介

ヒト多能性幹細胞由来の神経堤:誘導と軸方向パターン形成

hPSC-Derived Neural Crest: Induction and Axial Patterning

(ウェビナーの視聴にはSTEMCELL Technologies社ホームページへのログインが必要です。)

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演者
Dr. James Hackland(Memorial Sloan Kettering Cancer Center, USA)

内容
神経堤細胞は体内を長距離移動し、末梢神経系や頭蓋顔面骨格の細胞など、さまざまな種類の細胞を生成します。ヒト多能性幹細胞(hPSC)から効率的に神経堤を誘導するためには、胚における神経堤の発達に関する知識から導き出され洗練された、調和のとれたシグナルの組み合わせに注意深く曝露する必要があります。このウェビナーでは、in vitroでの神経堤誘導の複雑さと、脊椎動物の体内に存在する多種多様な神経堤誘導体を生成するためのhPSC由来神経堤の軸方向パターン形成における最近の進歩について説明します。
(所要時間54分21秒、2020年3月公開)

 

参考文献

  1. Sisignano M, Parnham MJ, Geisslinger G. Novel Approaches to Persistent Pain Therapy. Trends Pharmacol Sci. 2019;40(6):367‐377.
  2. Menendez L, Kulik MJ, Page AT, et al. Directed differentiation of human pluripotent cells to neural crest stem cells. Nat Protoc. 2013;8(1):203‐212.
  3. Mica Y, Lee G, Chambers SM, Tomishima MJ, Studer L. Modeling neural crest induction, melanocyte specification, and disease-related pigmentation defects in hESCs and patient-specific iPSCs. Cell Rep. 2013;3(4):1140‐1152.
  4. Leung AW, Murdoch B, Salem AF, Prasad MS, Gomez GA, García-Castro MI. WNT/β-catenin signaling mediates human neural crest induction via a pre-neural border intermediate. Development. 2016;143(3):398‐410.

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