研究者の声
2024/11/13
ヒト腸管オルガノイド由来の単層上皮と腸管樹状細胞の共培養 研究者の声【44】
- 用途別細胞培養
腸上皮バリアの免疫機能では、腸管内の樹状細胞が上皮間を貫く「上皮間樹状突起」を形成することが重要な役割を果たします。しかし、ヒトの細胞を用いた適切な実験系がなかったためにメカニズムの理解が不十分でした。今回ご紹介する研究では、ヒト腸管オルガノイド由来の単層上皮とヒト樹状細胞を共培養した実験系を開発し、ヒトの上皮間樹状突起形成のメカニズム解明に成功しています。
本研究では、ヒト腸管オルガノイドの樹立とその後の単層培養に、STEMCELL Technologies社の IntestiCult™ Organoid Growth Medium (Human) が使用されています。
研究者紹介
研究の背景
腸管粘膜固有層に存在する樹状細胞やマクロファージは、腸管管腔内抗原を認識するために上皮間を通り腸管管腔内まで達する樹状突起(上皮間樹状突起)を形成する。マウスではピルビン酸とその受容体であるGPR31 が上皮間樹状突起形成に重要な役割を有することを当研究室から報告している。しかし、これまではヒト細胞を用いた実験手法の確立が困難であったことから、ヒトにおける上皮間樹状突起形成のメカニズムは十分に解明されていなかった。
そこで本研究では、ヒトにおけるメカニズムを明らかにするため、ヒト腸管オルガノイドと樹状細胞の共培養による評価を行った。この際に、ヒト腸管オルガノイドをセルカルチャーインサート上へ単層培養することにより、上皮間樹状突起形成の評価に重要である上皮バリアを再現する手法を用いた。
方法および材料
同意を得た大腸癌手術患者の余剰検体から回腸陰窩を分離し、Matrigel®に懸濁して播種した。Matrigel®の周囲に IntestiCult™ Organoid Growth Medium (Human) を加えて培養を行い、ヒト小腸オルガノイドを樹立した。成熟したヒト小腸オルガノイドをトリプシン-EDTAを用いて単一細胞レベルにまで解離した。解離した細胞を2% Matrigel®でコーティングしたセルカルチャーインサートの底面側に播種し、定着後にセルカルチャーインサートを裏返した。これを IntestiCult™ Organoid Growth Medium (Human)(10 μM Y-27632含有)内で培養することでセルカルチャーインサートの底面側に単層培養し、これを細胞密度が100%になるまで培養した(図1)。
ヒト回腸から単離した樹状細胞、もしくはヒトiPS細胞から分化誘導した樹状細胞をセルカルチャーインサートの上側(単層上皮と対側)に播種し、共培養を行った。そのうえで、上皮側のチャンバーにピルビン酸や抗原を添加し、細胞形態や抗原の取り込みを評価した。
図1. ヒト小腸オルガノイド由来の単層上皮
セルカルチャーインサート(メンブレンを破線で図示)の底面側に単層培養を行った。
結果
GPR31を特異的に発現するヒト腸管通常型1型樹状細胞(cDC1)を、腸管オルガノイド由来の単層上皮と共培養した。ピルビン酸投与下では、cDC1が上皮間樹状突起を形成した(図2A)。
さらに、この結果として、cDC1が上皮側に投与した抗原を取り込むことを確認した(図2B)。この結果から、cDC1は上皮間樹状突起を伸展させることで上皮バリアを超えて管腔内抗原を認識していることが示唆された。
図2.ヒト小腸オルガノイド由来の単層上皮とヒト腸管cDC1の共培養
(A) 上皮側へのピルビン酸投与により、cDC1が単層上皮の間まで樹状突起を伸展している像が観察された。
(B) cDC1はピルビン酸存在下で上皮側に存在する大腸菌(抗原)を取り込む。
結論
本研究結果から、ピルビン酸が GPR31 を介してヒト腸管cDC1へ作用し、その結果、cDC1が上皮間樹状突起を形成して管腔内抗原を認識することが明らかになった。ヒト腸管オルガノイド由来の単層上皮を用いることで、ヒトにおける上皮間樹状突起形成のメカニズムを明らかにすることができた。
腸管オルガノイド由来の単層上皮は上皮バリアを再現することができるため、腸管管腔内容物、腸管上皮、および腸管免疫細胞のダイナミックな相互作用を評価するうえで有用であると考えられた。
文献
本成果は、2024年10月21日(月)に米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(オンライン)に掲載されたものの一部である。
タイトル:
“The pyruvate–GPR31 axis promotes transepithelial dendrite formation in human intestinal dendritic cells”
著者名:
Eri Oguro-Igashira, Mari Murakami, Ryota Mori, Ryuichi Kuwahara, Takako Kihara, Masaharu Kohara, Makoto Fujiwara, Daisuke Motooka, Daisuke Okuzaki, Mitsuru Arase, Hironobu Toyota, Siyun Peng, Takayuki Ogino, Yasuji Kitabatake, Eiichi Morii, Seiichi Hirota, Hiroki Ikeuchi, Eiji Umemoto, Atsushi Kumanogoh, Kiyoshi Takeda
URL: https://doi.org/10.1073/pnas.2318767121