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ラーニングコーナー

2019/07/25

ヒト腸管オルガノイド由来単層培養系の効率的な樹立と培養

  • 用途別細胞培養

オルガノイド培養システムは、再生医療、疾患モデリング、薬剤スクリーニングにとって最先端のツールです。
「STEMdiff™ Intestinal Organoid Kit」と「IntestiCult™ Organoid Growth Medium (Human) 」はそれぞれ、腸オルガノイドをヒト多能性幹細胞(human pluripotent stem cells (hPSCs))とヒトプライマリー組織から誘導し、増殖するために使用されます。しかし、3次元培養系であるMatrigel®に埋まった状態であるオルガノイドは、がん細胞株Caco-2やその他の腸の細胞株が一般に使用される従来の2次元単層培養系(2D monolayer culture)に適用可能な、ある種の実験系やハイスループットの系に適用することが難しい可能性があります。

STEMCELL Technologies社は「IntestiCult™ Organoid Growth Medium (OGM)」を用いて、ヒト、マウス、およびhPSC由来のオルガノイドを腸上皮独特の特徴を再現し続ける2次元単層として培養する方法を開発しました。最近の研究では、樹立したオルガノイド由来2次元細胞単層を特徴づけ、これらの腸管上皮単層の生理学的性質をCaco-2細胞株と比較することに焦点が当てられています。これを行なうために、プライマリーのヒト腸オルガノイドをCorning® Matrigel®-coated tissue cultureとTranswell®プレート上でIntestiCult™ OGM中に播種しました。培養7日後に免疫組織化学解析を行い、バリアの完全性について測定するために経上皮電気抵抗(transepithelial electrical resistance (TEER))を計測、そしてイオン輸送を測定するためにウッシング(Ussing)チャンバー解析を行いました。

出典:Martin Stahl et al., Efficient Establishment and Growth of Human Intestinal Organoid-Derived Monolayers. ISSCR 2019

オルガノイド単層培養の方法

腸管オルガノイドの単層培養

hPSC培養由来の腸管オルガノイド、ヒト生検、またはマウスの腸サンプルを、STEMdiff™ Intestinal Organoid KitとIntestiCult™ OGM Kitそれぞれの製品プロトコールに従い、Corning® Matrigel®を50%含むドーム内で培養し、継代を行いました。単層培養系を樹立するために、Matrigel®のドームをGentle Cell Dissociation Reagent (GCDR)によって処理することにより、7~10日経過した成熟オルガノイド培養を回収してプールしました。オルガノイドはDMEM/F-12培地で一度洗浄し、0.05% トリプシン-EDTAで処理を37°C 10分間行なうことによりオルガノイドを小さな細胞塊または単一細胞のレベルまで解離させました。細胞は再度DMEM/F-12培地で洗浄し、その後IntestiCult™ OGM (rhoキナーゼ阻害剤 Y-27632を10 μM含有)に再懸濁させました。その後細胞をTranswell® インサート、または2%の Matrigel® 試薬でプレコートされた細胞培養用ウェルに播種しました。

Transwell® インサートにおける単層培養系樹立のワークフロー

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hPSC由来の腸とドナー患者の腸から得た生検から幹細胞集団を維持・拡大させるために、それぞれIntestiCult™ Organoid Growth Mediumを使用して3次元の腸オルガノイドとして培養しました。
オルガノイドはその後、単層培養系樹立のため回収してIntestiCult™ Organoid Growth Medium(10 μM Y-27632含有)中に設置したTranswell®カルチャーインサート内に播種しました。

ヒト腸オルガノイド由来の単層培養法の詳細は、お問い合わせご覧ください。

実験結果

様々なサンプルのオルガノイドに由来する単層培養

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(A)ヒト結腸、 (B)マウス結腸、(C) Caco-2 細胞 (P25, D21)、 (D) hPSC由来オルガノイド (H9胚性幹細胞株)の代表的な明視野(左)と蛍光イメージ(右)です。 villin(緑)、E-cadherin (赤)、細胞核染色のためのDAPI(青)の免疫蛍光染色を示します。細胞の頂上端に沿ったvillin染色は細胞の極性化、E-cadherin染色は接着結合の存在を示します。また、DAPI染色は上皮細胞の基底外側極付近の核の存在を示します。(スケールバーは500 μm)。

ヒト結腸細胞単層の分化

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プライマリーの腸細胞単層培養の分化を促進するために、IntestiCult™ OGM のComponent B を除去してDMEM/F-12で置換することが可能ですが、これにより幹細胞ニッチを維持する因子を取り除き、細胞増殖へと推移、さらなる上皮分化が可能になります。 (A)IntestiCult™ Organoid Growth Mediumのコントロールと比較して、(B)分化した培養系では、上皮細胞上端の境界に沿ってvillin染色が亢進した「敷石状(cobblestone)」の細胞単層の増加で示されるように、腸細胞の成熟と極性化が進行しています(スケールバーは500 μm)。

様々なオルガノイド由来の細胞単層において異なるマーカーを発現

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抗MUC2抗体(緑)は、腸の単層培養中のゴブレット(goblet)細胞の存在を確認するために使用しました。ゴブレット(goblet)細胞の染色陽性は、(A)ヒト結腸オルガノイド、および(B) hPSC (H9細胞株)に由来する細胞単層の両方で検出されました。(C) IntestiCult™ Organoid Growth Mediumで培養した3次元オルガノイドでは幹細胞ニッチが維持されました。一方、単層では相対的なLgr5の発現低下・MUC2の発現増加に示されるように、分化過程を追加しなくても、より分化した状態が維持されました。(n = 3, *p < 0.01).

オルガノイド由来の細胞単層は、高いTEER値・低いFITC-Dextran透過性を有す

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細胞単層の厚さと細胞間密着結合の質を測定するには、一般的には経上皮電気抵抗値(trans-epithelial electrical resistance (TEER) )を測定します。
(A)IntestiCult™ OGM中で7日間培養したオルガノイド由来の細胞単層と、10% FBS含有 DMEM/F-12で21日間培養したCaco-2細胞を直接比較すると、これらの条件下ではそれぞれの細胞は同等のTEER値を示しました。オルガノイド由来の細胞単層においてTEER値は平均358.5 ± 22.6 *cm2 (SEM; n = 12)となり、Caco-2単層における平均301.1 ± 22.3 cm2 (SEM; n = 10)と比較して同等かそれ以上のバリア機能を持つことが示された。
(B) 同様に、両培養系の培地を2% FBS含有 DMEM/F-12に置換した場合にも、TEERの測定値は24時間に渡り一定に維持されました。
(C)同じ実験条件においてFITC-dextranを頂端ウェルに添加した場合には、Caco-2細胞では24時間の間に透過性が大きく上昇したのに対し、オルガノイド由来の単層培養は優れたバリア機能を維持していました。(n = 6, * P<0.05)

オルガノイド由来の単層は、Caco-2細胞培養と比較して優れたCFTR活性を有する

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CTFRは腸上皮での液分泌の制御において鍵となるイオントランスポーターの1つです。嚢胞性繊維症においてこの分子の機能が欠損すると、肺と腸両方に著しい合併症を引き起こす可能性があります。
(A)IBMX/フォルスコリンによる活性化やCTFRインヒビター172 (CFTRinh172) による阻害を行なった際のCFTR活性を、ウッシングチャンバーを使ってヒト腸単層とCaco-2細胞間で比較したものです。
(B) IBMXとフォルスコリンで処理すると、 短路電流の変化(ΔISC)の分だけ活性が上昇しましたが、その上昇分はヒト腸の細胞単層ではISCが40.3 ± 7.62 A/cm2 (SEM; n = 6) であり、Caco-2細胞のISC(6.7 ± 0.61 A/cm2 (SEM; n = 4; p = 0.04))よりも有意に高い値を示しました。CFTRinh172で処理するとCTFRの活性は低下し、ヒト腸細胞単層ではΔISCが80.6 ± 5.96 _A/cm2 (SEM; n = 6) であり、Caco-2細胞培養の15.5 ± 1.98 A/cm2 (SEM; n = 4; p < 0.0001)と比較して、腸の細胞単層では感受性が高まっていることが示されました。同様の実験をhPSC由来オルガノイドに対して行ないましたが、CFTRの活性化及び阻害に対して反応性を全く示しませんでした。

結論/まとめ

腸管オルガノイド由来単層培養系のまとめ

  • IntestiCult™ Organoid Growth Medium (Human) は、3次元のオルガノイド培養からプライマリー細胞の細胞単層を直接樹立するために使用することができます
  • これらオルガノイド由来の細胞単層は融合性であり、極性があり、密着結合を有しています
  • オルガノイド由来の細胞単層には、幹細胞、腸細胞、機能的なゴブレット細胞を含む広範な細胞種が存在しています
  • オルガノイド由来の細胞単層は、バリア機能の維持においてCaco-2よりも優れています
  • ヒト腸細胞単層のCFTR活性はCaco-2細胞よりも優れており、活性化や機能阻害分子に対してより感受性になっています

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